公共貨幣フォーラムが考える未来の貨幣の要件 2019/02/01 改訂

電子公共貨幣(Electronic Public Money, EPM)

7つのシステムプロトコル提案

「貨幣システム」としての4つのプロトコル

1.EPMの発行主体はPMA(唯一のマイナー)

EPMは公共貨幣委員会 (Public Money Administration, PMA) のみが発行します。ビットコ インのように誰でもがマイナーにはなれません。随時に発行できるようにし、発行額は需要と供 給によって決まります。需要量は財務省が政府予算から計測し、供給量は公共貨幣省が経済成長 率や物価水準等を考慮して決めます。需給が一致しない場合には、公共貨幣委員会が需給を調整し て最終決定します。EPMの新規発行量は、政府支出の一部として、流通に投入されます。 こうした需給調整を公平に行うためには、公共貨幣委員会はいかなる政治勢力や圧力団体から も独立でなければならず、またEPM発行、流通に関する情報は全て公開されます。

2.ユニフォーム税率(公正な徴税)

EPMが法定通貨として広く受け入れられるためには、政府が税金をEPMで受け取るように しなければなりません。この徴収方法として、ビットコインで送金者がマイナーに支払っている取 引料金 (Transaction Fee) のようなシステムを参考にします。具体的にはこの取引料金を、ユニ フォーム税率(財政政策)とEPM流通量調整率(公共貨幣政策)の2つに分割して決済送金者 が支払うようにします。ユニフォーム税率とは、取引量に比例して全ての取引決済の際に課される 一律の税金率です。EPM流通量調整率とは、EPMの流通量を調整するために流通からEPM を随時に引き上げる際に用いられる率のことです。

まず、ユニフォーム税率から考察してゆきます。ユニフォーム税率導入によって、取引決済毎に 支払者が同一の税率で政府に税金を支払うようなります。お金が移動する度に、その額に応じて 全ての国民が公正に税金を負担するようになります。これによって消費税、所得税、法人税といっ た従来の複雑な徴税システムが廃止され、徴税コストが大幅に節約されるようになります。さら に、マネーロンダリングや海外のタックスヘブンへの税金回避のための送金にも漏れなく課税さ れるようになります。よって、政府はマイナンバー等で個人の所得を管理する必要がなくなります。 その結果、国民は住所、氏名、生年月日、所得等の個人の基礎情報を政府に提供する必要もなく なり、政府や公権力から監視されることがなく、自由に経済活動やレジャーを楽しめるようにな ります。

ではユニフォーム税率は具体的にどの程度になるのでしょうか。全国銀行資金決済ネットワー クのデータによると、年間に約2,800兆円の取引決済が約690兆円の流動性預金から行われ ています。現在流通している現金(主に日銀券)は約100兆円。流通速度を10とすると、年 間約1,000兆円の取引決済が現金で行われています。両者を合計すると、約3,800兆円が1 年間に決済のために移動(送金)していることになります。一方、政府の税収は約59兆円で、 歳出は約98兆円(2018年度)です(但し、特別会計の税収はここでは除外しています)。 よってユニフォーム税率を2.6%とすれば、年間99兆円の税収となり、政府は赤字国債を発行 しなくても財政健全化を実現できるようになります。勿論、ユニフォーム税率2.6%は、現在の 消費税8%、所得税率(5%~45%)、法人税率(19%~23%)よりはるかいに小さい額 となり、EPM導入は消費者やサラリーマン、企業にも歓迎されることになるでしょう。勿論、 2.6%はあくまでも議論のための試算であり、EPMシステムのもとではリアルタイムで徴税総 額を政府が把握できるようになりますので、ユニフォーム税率をリアルタイムで変更し、年度途中 でも税収を随時調整できるようになります。勿論、こうした徴税情報はリアルタイムで国民にも常 時、情報開示されます。

3.EPM流通量調整率(物価安定)

EPM流通量調整の主要目的は価格(物価)とEPMの貨幣価値を安定させることです。マネー ストックが内生的に気まぐれに変動する債務貨幣システムと違って、EPMシステムでは価格は流 通EPM量に比例するようになるので、EPM流通量調整率を調整することにより、EPMが流 通から随時、引き上げられるようになります。これがEPMシステムのもとでの、公共貨幣政策 (Public Money Policy) となります。すなわち、経済がインフレ気味の場合には、公共貨幣委員 会が即座にこの調整率を引き上げて、EPMを流通から吸収して、インフレを制御するのです。他 方、デフレ気味の場合には、政府のヘリコプターマネーとして財政政策を通じて、EPMは流通に 直接投入されます(この場合は、1の新規EPM発行量の一部に組み込まれます)。

以上、2と3で提案のプロトコルがEPMで実装されると、これまでの財政・金融政策が大き く変更され、政府(財務省、公共貨幣省)の政策がより効率的、スピーディーに実行されるよう になります。

4.プライバシーの保護

現金による決済の場合には、決済当事者以外は、誰が、いつ、どこで、いくらお金を支払った のかといった個人情報は自動的に全て保護されています。EPMが「未来の貨幣」として広く流 通するためには、こうした決済に伴うプライバシーは完全に保護されなければなりませ。こうし た匿名性や決済の秘匿性は、ブロックチェーン技術を用いたビットコインでも十分に保護されてい るとはいえません。ビットコインによる取引決済情報は、ブロックチェーンとして全て公開されて いるので、誰でも自由にトレースすることができるのです。勿論、暗号キーによって、取引者の名 前は匿名とされていますが、交換所等での取引情報から、国は強制的に匿名者を特定することも 不可能ではないのです。よって、現在のブロックチェーン技術を用いた仮想通貨では、プライバシー は完全に保護されているとはいえません。EPMが「未来の貨幣」となるためには、取引決済に 伴いプライバシー(匿名性や決済の秘匿性)は完全に保護されなければなりません。こうしたプ ロトコルを実装可能とするイノベーションは生まれてくるのでしょうか。

「決済システム」としての3つのプロトコル

次に、EPMが「未来の貨幣」となるためにの「決済システム」として、以下の3つの技術プ ロトコルが実装されなければなりません。これらのシステムプロトコルは技術的プロトコルとし ての性格が強く、すでにフィンテック技術者やブロックチェーン技術者の間で広く議論され、日 進月歩で新しいイノベーションが報告されています。

5.決済スピード

キャッシュレスで決済する場合が近年多くなってきています。イコカカードのような電子マネー や銀行のデビットカードにによる支払は、取引決済が比較的短時間に行われます。他方、クレジッ トカード決済の場合には、支払者や受取人の決済が完了するまでには約1ヶ月程度の時間的遅れ が発生します。SWIFTのような国際決算システムを利用する場合には、数日を要します(最 近は数時間で決済完了のシステムも実験され始めています)。ビットコインのような仮想通貨で も取引決済には約10分間を要するし、決済が最終確認されるまでには約1時間かかるともいわ れています。

それに反し、現金による支払は即座に相対決済で完了します。EPMが「未来の貨幣」として 広く受け入れられるためには、こうした現金決済と同様のスピードで、数秒で決済されなければ なりません。

6.決済回数(スケーラビリティ)

ビットコインの決済回数は、1秒間に3~4件 (Transactions Per Second, TPS) といわれて います。一方、ペイパルは1秒間に平均193件、ビザカードは1秒間に平均1,667件の決済が 行われているとネット上では報告されています。人口密度が高く、経済活動が活発な日本のよう な国でEPMが日々の取引に使用されるためには、取引回数は少なくとも1秒間に数万から数十 万回は必要となるでしょう。ブロックチェーン技術のイノベーションで、このようなスケーラビリ ティを達成することが、EPM普及に不可欠となります。

7.セキュリティー

取引の安全性も最重要なプロトコル要件です。EPMがハッカーによって盗まれない、停電や 国家的災害等の偶発事故にも強く、「価値の保蔵」手段として金(ゴールド)と同様に安全であ る等々といったセキュリティーが保証されなければなりません。こうしたセキュリティー保証が 国によって保証されて初めて、EPMは「未来の貨幣」となるのです。


以上、電子公共貨幣(EPM)が「未来の貨幣」として広く流通してゆくために必要な条件と して、7つのシステムプロトコルを提案しました。4つは「貨幣システム」としてのプロトコル、 3つは「決済システム」としての技術的プロトコルです。私たち一般社団法人公共貨幣フォーラム は、こうしたプロトコルの実装可能性を、政策担当者、技術者、実務家、研究者、消費者、起 (企)業家等に広く呼びかけて、深く探求してゆきます。

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